頭頸部がん

頭頸部癌の治療は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の分野であり、岐阜市民病院は岐阜県で最初の頭頸部外科標榜病院です。頭頸部癌とは、耳、鼻、咽喉頭、口腔、頚部、顔面などにできる癌です。これらの場所は顔面形態と人間の五感に関係した重要なはたらきがありますので、癌により、或いは治療の影響で形態や機能が障害されると生活の質に重大な支障がでますので、治療方法の選択が重要な問題となります。又、免疫治療もこれまでの治療の経過によっては治療にとりいれることができるようになりました。

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頭頸部腫瘍のTNM分類と病期分類

がんの進行状態はTNM分類と病期分類であらわします。
T分類とは、がんの原発部位の大きさ、進展の状態を示し、N分類は所属するリンパ節への転移の状態を示し、離れた他臓器への転移の状態を示すM分類の3つで、病期分類を決定します。

1)『口腔癌』のT分類(頬粘膜、舌、口腔底など)

「頭頸部癌取扱い規約 第6版」(2018年1月発行)ではT分類に深さの概念が加わり、従来の最大径に加え、深達度5mm、10mmを超える腫瘍はそれぞれT2、T3、さらに深達度が10mmを超え、かつ最大径が4cmを超える腫瘍はT4と分類されることになりました。病理診断(pT因子)も同様です。

  • T1 最大径が2cm以下の腫瘍
  • T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
  • T3 最大径が4cmをこえる腫瘍
  • T4 口唇 隣接組織、たとえば骨髄質、舌、頸部皮膚に浸潤する腫瘍

T1、T2で頸部に転移していないものは、局所の切除や放射線・化学療法を優先します。頸部に転移している場合は、舌の腫瘍と頸部に転移したリンパ節も切除する、舌腫瘍摘出および根治的頸部郭清術をめざします。この場合、切除された舌を大胸筋皮弁、遊離筋皮弁などで再建することが必要になります。再建手術後に嚥下や会話のリハビリテーションが必要です。最近では治療前の導入化学療法等で切除範囲を縮小できたりする事例もあります。

2)『上顎洞癌』のT分類

手術が基本となります、大きく切除すると顔面の形態に変化をきたすこと、脳・眼などの重要臓器が近接しており、十分な切除マージンをつけにくいことから、化学療法、放射線治療なども組み合わせた集学的治療が行われることが多いです。いずれの治療も、腫瘍の進行度、患者さんのご希望などを考慮して決められます。

  • T1 腫瘍が上顎洞粘膜に限局し、骨吸収も骨破壊も認めない
  • T2 腫瘍は硬口蓋および/または中鼻道を含む下部構造の骨吸収あるいは骨破壊を伴う
  • T3 腫瘍はつぎのいずれかに浸潤する:頬部の皮膚、上顎洞後壁、眼窩底または眼窩内壁、前篩骨洞
  • T4 腫瘍はつぎのいずれかに浸潤する:篩板、後篩骨洞あるいは蝶形骨洞、上咽頭、軟口蓋、翼口蓋窩、側頭窩、頭蓋底

上顎癌は、T1、T2で見つかる事は少なく、T3以上になって発見されることが一般的です。放射線・化学同時併用療法40Gy行います。その後腫瘍の進展範囲に応じて根治手術を行い、再建術をおこないます。必要があれば術後照射を行います。

3)『上咽頭癌』のT分類(後上壁、側壁、下壁の3亜部位に細分される)

  • T1 上咽頭の1亜部位に限局する腫瘍
  • T2 上咽頭の1亜部位をこえて浸潤する腫瘍
  • T3 鼻腔および/または中咽頭に浸潤する腫瘍
  • T4 頭蓋および/または脳神経に浸潤する腫瘍

放射線・化学療法が原則です。上咽頭腫瘍は頸部リンパ節転移が起きてから発見されることが多く、浸出性中耳炎の原因になることもあります。また頸部転移に対しては、頸部郭清術を行うこともあります。

4)『中咽頭癌』のT分類 (中咽頭は前壁、側壁、後壁、上壁の亜部位に細分される)

「頭頸部癌取扱い規約 第6版」(2018年1月発行)ではHPV関連の有無(陽性、陰性の判定はp16免疫組織化学的染色による)で分類されることになり、p16陽性では領域リンパ節の病期分類が変更されました。

  • T1 最大径が2cm以下の腫瘍
  • T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
  • T3 最大径が4cmをこえる腫瘍
  • T4 隣接組織すなわち骨髄質、頸部軟部組織、舌深層(extrinsic)の筋肉に浸潤する腫瘍

・中咽頭癌は側壁、前壁、上壁、後壁の亜部位に分類されるが、側壁が最も多い。

・病因として喫煙、飲酒のほか、ヒト乳頭腫ウイルスによるものがあり、近年増加傾向にあります。多くが扁平上皮癌で頸部リンパ節転移が多い。重複癌が多く、飲酒歴のある患者では上部消化管内視鏡検査によるスクリーニングが勧められます。

中咽頭癌の治療では、そしゃく、嚥下や音声機能を保存するために放射線・化学療法が中心です。病変が消失しない場合は腫瘍の切除を行うことがあります。頸部にリンパ節転移がある場合は、切除することもあります。5年生存率は、70%程度です。最近ではp16遺伝子陽性の有無を治療前に確認できるようになり、良好な治療成績がえられるようになりました。

5)『下咽頭癌』のT分類(下咽頭は咽頭食道接合部(輪状後部)、梨状陥凹、 咽頭後壁の亜部位に細分される)

  • T1 下咽頭の1亜部位に限局する腫瘍
  • T2 片側喉頭の固定なく、下咽頭の1亜部位をこえる/または隣接する1部位に浸潤する腫瘍
  • T3 片側喉頭が固定し、下咽頭の1亜部位をこえる/または隣接する部位に浸潤する腫瘍
  • T4 隣接組織たとえば軟骨や頸部軟部組織に浸潤する腫瘍

下咽頭癌は頭頚部領域の中で予後不良の癌です。下咽頭腫瘍の治療では、嚥下や音声機能を保存するためにやはり放射線・化学療法を優先します。病変が消失しない場合は腫瘍の切除を行います。この際頸部転移があれば、原発巣と頸部リンパ節を切除します。この場合、切除した下咽頭の頸部食道の欠損は、小腸(空腸)を移植して形成します。最近は導入化学療法や鏡視下悪性腫瘍切除、その後の化学療法で喉頭温存できる例が増えています。

6)『喉頭癌』のT分類(声門上、声門、声門下に細分される)

ここでは頻度の高い声門癌について示します。
* 声門

  • T1 声門運動正常で一側声帯に限局する腫瘍
    (前または後連合に達してもよい)
  • T1a 一側声帯に限局する腫瘍
  • T1b 両側声帯に及ぶ腫瘍
  • T2声門上部および/または声門下部に浸潤するものおよび/または声帯運動の制限を伴う腫瘍
  • T3 声帯が固定し喉頭内に限局する腫瘍
  • T4 甲状軟骨を破って浸潤するもの

喉頭癌の治療では、音声機能を保存するために放射線/化学療法を優先します。進行度に応じて治療法を選択します。早期癌では放射線治療や経口的低侵襲手術、進行癌では化学放射線療法や拡大切除が行われますが、喉頭温存のために集学的治療を行うこともあります。最近は鏡視下の腫瘍切除も積極的に取り入れています。

7)『唾液腺癌』のT分類(耳下線、額下腺、舌下腺)

  • T1 最大径が2cm以下の腫瘍
  • T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
  • T3 最大径が4cmをこえる腫瘍
  • T4 最大径が6cmをこえる腫瘍

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当科での治療方針

唾液腺癌の治療では、小さい物は周辺組織をつけて切除します。顔面神経は、腫瘍の悪性度が高く剥離保存できない場合は切除します。腫瘍の悪性度が低い場合は保存します。この際頸部転移があれば、原発巣と頸部リンパ節を切除します。悪性度が高く進行した場合は、手術後に放射線療法や化学療法を追加することがあります。

『甲状腺癌』のUICCによるT分類

  • TX 原発腫瘍の評価が不可能
  • T0 原発腫瘍を認めない
  • T1 甲状腺に限局し最大径が1cm以下の腫瘍
  • T2 甲状腺に限局し最大径が1cmをこえ4cm以下の腫瘍
  • T3 甲状腺に限局し最大径が4cmをこえる腫瘍
  • T4 最大径が6cmをこえる腫瘍

甲状腺に発生する癌は大別して4つの型があります。

①乳頭癌写真:甲状腺の濾胞上皮由来の悪性腫瘍。主として乳頭状に増殖する。甲状腺癌の90%を占めます。

②濾胞癌:濾胞上皮由来の悪性腫瘍。基本的に濾胞構造をもつが、充実性、索状に増殖するものもあります。乳頭癌、濾胞癌は発育が緩慢で、手術の予後も良好です。

③未分化癌:濾胞上皮由来の悪性腫瘍であるが、細胞異型や構造異型が著しく、増殖傾向がきわめて強い。発育、進展が早く、化学療法、放射線照射などの治療を行っても予後はきわめて不良です。

④髄様癌:甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生する。カルシトニンを合成分泌する。細胞学的には多彩な像を呈します。髄様癌の症例の約40%は常染色体優性遺伝により家族性に発生します。

甲状腺癌の治療では、小さい物は甲状腺の半分を、大きい場合は甲状腺を全て切除します。反回神経はできるだけ保存しますが、腫瘍から剥離保存できない場合は切除します。この際に頸部リンパ節に転移があれば、原発巣と頸部リンパ節を切除します。反回神経切除による音声や呼吸の障害に対しては機能を回復する手術を行うこともあります。腫瘍の悪性度が高く進行した場合は、手術後に放射線療法を追加することがあります。最近では岐阜大学医学部放射線科と協力して術後のアブレーション、ヨード内用療法を追加される患者さんも増えてきました。また術後再発例には分子標的薬の治療を行える場合もあります。

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