肝がん

1.内科の立場から

概要

日本の肝癌のほとんどは、肝細胞から発生する肝細胞癌と呼ばれるものです。全国的には肝細胞癌で亡くなられる患者数は年々減少傾向にあるものの、依然、多くの方が毎年命を落とされています。
肝細胞癌の原因は、かつてそのほとんどが肝炎ウイルスによるものでした。ところが、近年、特にC型肝炎ウイルスに対する薬物療法の成績が向上した結果、C型肝炎ウイルスによるものが減少し、肝炎ウイルス以外の非B非C型の肝細胞癌が増加してきています。特に、最近は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とよばれる、進行した脂肪肝から発生する肝細胞癌が注目されています。
脂肪肝とは肝臓に脂肪が蓄積した状態のことを指します。アルコール摂取によるものとよらないものがあり、アルコール量が一定の基準以下で脂肪肝になってしまったものを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といいます。その中で、肝臓に炎症がおきているものをNASHといいますが、NASHの一部は悪化すると肝硬変や肝癌へと発展するリスクがあるため注意が必要です。

診断

肝細胞癌を早期に発見するには、よりリスクが高い人に定期的な検査を行うことが重要です。肝細胞癌は、肝の線維化が強い方ほど発生しやすいということがわかっています。肝の線維化をみるには以前は肝生検という入院が必要な検査を行う必要がありましたが、最近はより簡単に、肝硬度を測定することによって肝の線維化を評価できるようになっています。当院では、FibroScanあるいはMRエラストグラフィとよばれる、最新の画像診断装置を用いることにより、肝硬度を測定し、その結果に基づいて肝細胞癌のリスク評価を行っています。
肝細胞癌を発見する検査としては超音波検査が基本です。当院では、日本超音波医学会認定の専門医および検査士が検査にあたっており、より早期に異常を発見して、必要に応じて造影剤を用いた二次検査(造影CTや造影MRIなど)を行うことによって、より早期に肝細胞癌を診断できるような体制を作っています。造影超音波検査は腎機能が悪い方や造影剤のアレルギーがある方でも安全に施行できる方法で、1cm以下の微小な肝細胞癌も診断可能な方法です。熟練を要する検査ですが、当院では積極的に行い、早期の肝細胞癌診断が可能となっています。

治療

肝細胞癌の内科的治療の中心は経皮的ラジオ波凝固療法(RFA)です。エコーガイド下に肝細胞癌を狙って細い針を穿刺し、ラジオ波という電磁波を流すことによって腫瘍を焼灼し、壊死させる治療です。当科でのRFAを行った患者さん(3cm3個以下)の累積生存率は77.5%(3年)、58.8%(5年)、30.4%(10年)となっております。
また、肝細胞癌の状態によっては、肝動脈塞栓術や定位放射線治療、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを用いた薬物療法なども積極的に行っております。肝動脈塞栓術はカテーテルという細い管を肝細胞癌近くの血管まで挿入し、血管を塞栓させることにより腫瘍を壊死させる治療法です。最近はカテーテルを左手の手首から入れることにより、患者さんの負担をより減らす方法で治療を行っています。放射線治療も患者さんの負担が少ない治療法です。放射線治療専門医と連携して肝腫瘍の状態に応じた治療計画を行い、必要に応じて金マーカー留置術という、治療効果を高める方法も併用しています。
多々ある肝細胞癌の治療法の中から、患者さんや肝細胞癌の状態にあわせた治療法を選択し、治療効果が得られるよう日々努力しています。

再発予防

肝細胞癌はほとんどが肝炎ウイルスが原因であるため、治療を行っても高率に再発し最も大きな問題となっています。
再発予防に関して決定的な治療法はいまだ開発されていませんが、当科では種々の研究報告をもとに、インターフェロン、ビタミンK2等による再発予防を患者さんの同意のもとに積極的に行っています。

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2.外科の立場から

原発性肝癌はウイルス性(B型またはC型)肝炎の経過中のみならず、脂肪肝にも発生します。その治療にはラジオ波による焼灼療法、肝動脈動注療法、放射線療法、抗がん剤や免疫療法などいろいろな治療法が挙げられます。
これらの中で手術療法は癌を取り除くには確実な方法と思われます。しかし、すべての病変が切除できるわけではなく、併存する肝硬変のため肝機能が低下して手術が困難な場合があり、腫瘍の部位や数、大きさと肝臓の機能のバランスに応じて治療法の選択することが重要です。当院では内科医と連携し、肝機能が良好で内科的治療が困難な患者さんには積極的に手術を行っています。

肝細胞癌の大きさや位置によっては、小さな傷で体への負担を減らすことが可能な腹腔鏡下手術を選択することもあります。
また大きな腫瘍に対しては手術の安全性を高めるためにPTPEという切除側の肝臓の血管を術前に閉塞させる手技を用いて、残存予定の肝臓の容積を増大させ切除をおこなっています。
当院で肝切除をおこなった患者さんの生存率は3年82.1%, 5年75.9%で、肝機能の良好な患者さんに対する肝切除術の成績は良好です。

しかし手術で腫瘍が完全に切除できても、ウイルス性肝炎や脂肪肝が持続するため、術後に再び腫瘍ができる可能性があり、ウイルス性肝炎に対する治療や超音波、MRIなどによる定期的な経過観察が必要で,ここでも肝臓内科医との連携が重要です。

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