平成26年度 第6回公開講座の様子

平成26年度 第6回岐阜市民病院公開講座実績

平成26年度第6回岐阜市民病院公開講座を開催しました

日時
平成26年10月11日(土)
午後2時30分~午後4時
講演内容

こどもの心身の発育・発達について

こどもの身体の成長、特に低身長について
岐阜市民病院小児科医師 森 真理

こどもの心、特に摂食障害について
岐阜市民病院小児科医師 遠渡 沙緒理

平成26年10月11日(土)、岐阜市民病院内西診療棟4階サルビアホールにおいて、平成26年度第6回(通算46回)岐阜市民病院公開講座を開催しました。
「こどもの身体の成長、特に低身長について」と題して、岐阜市民病院小児科医師 森 真理、続いて、「こどもの心、特に摂食障害について」と題して、岐阜市民病院小児科医師 遠渡沙緒理からの講演を開催しました。当日は、30人の市民にお集まりいただきありがとうございました。
質疑応答もあり、盛況のうちに公開講座を終了しました。
また、アンケ-トにもご協力いたただきありがとうございました。
(講演内容については、要約を掲載

なお、次回は、11月29日(土)に、正しく知ろう認知症と題して、岐阜市民病院神経内科部医長 山田 恵
認知機能の検査方法と題して、岐阜市民病院臨床心理士 神戸 誠
認知症の方が利用できる制度と題して岐阜市民病院医事課医療相談係長 仲田 明子
からの講演を予定していますので、次回も出席くださるようお願いします。

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講演をする
小児科医師 森 真理
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講演をする
小児科医師 遠渡 沙緒理
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質疑応答に答える
講演者

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講演要約

こどもの身体の成長、特に低身長について
岐阜市民病院小児科医師 森 真理

こどもの成長は大きく3段階に分けられる。まず胎児期後半から乳児期は成長スピードが最も大きく,この時期は栄養が最も関係する。次に1歳頃よりおだやかに成長しこの時期には成長ホルモンが関与する。思春期には性ホルモンが関与しスパートをかけ,成長が完了する。成長ホルモンはインスリン様成長因子(IGF-Ⅰ)を肝臓から分泌したり,軟骨細胞に直接働き骨や筋肉の成長を促す作用がある。IGF-Ⅰの作用は睡眠,栄養,運動で促進し,ストレス,低栄養で抑制される。成長ホルモンは睡眠開始後の深い睡眠時に分泌が増加する。運動も軟骨に刺激をあたえ成長を促し,また成長ホルモン分泌を促す。低身長が気になる場合は、まず成長曲線を描いてみる。-2SDを下回っている場合や正常範囲内にはいっていても成長率が低い場合は病院受診が必要である。低身長をきたす原因はさまざまあるが,病気ではないもの,これが最も原因として多い。ホルモンや骨などに異常がなく健康で単に背が低い体質性低身長,両親かその一方に背が低い人がいる家族性低身長,思春期発来が遅れるため他の子よりスパートが遅くかかる体質性思春期遅発症がある。成長ホルモン分泌不全性低身長症は,多くは明らかな原因が不明な特発性で,1割くらいに脳腫瘍などが原因のことがある。負荷試験を行い診断し,治療は自宅で成長ホルモンの補充を行う。甲状腺機能の低下により低身長となることもあり,甲状腺ホルモンの補充を行う。代表的な染色体異常としてはターナー症候群があり2000人に1人くらいの割合でみられる。均整のとれた低身長だが,卵巣の発育が悪いので思春期が見られない。ターナー症候群では成長ホルモン治療や女性ホルモン治療を行う。子宮内発育不全が原因のことがあり,SGA(生まれた時の大きさが、お母さんのお腹にいた期間に応じた標準身長・体重よりも小さい)で生まれたあかちゃんで2〜3歳までに標準的な身長に追いつかない場合で一定の条件を満たす場合には成長ホルモン治療を行うことがある。心理的な原因でも成長障害をもたらすことがある。その代表的なものが愛情遮断症候群であり, 親から精神的な虐待を受けて育ったために背が伸びず,入院などによりストレスから解放されると,急に身長が伸び始めるという特徴がある。その他の原因として,軟骨無形成症などの骨の異常や,腎臓や心臓などの臓器の異常でも低身長を来す場合がある。このように身長の伸びに関わる要因は,遺伝や体質,各種のホルモン,栄養などの他にも睡眠や運動,心理状態(愛情やストレス)などの環境要因がある。低身長が気になるときは成長曲線を描き,低身長や身長増加不良などあれば早めに小児科受診が必要である。

こどもの心、特に摂食障害について
岐阜市民病院小児科医師 遠渡 沙緒理

【はじめに】
飽食の現代において,スリム志向をあおられ,過度にダイエットにのめりこむ児が摂食障害を発症するリスクが高くなっている。その一方で,やせ願望は関係なく,悩み多き思春期の児が大きなストレスを抱えたときに,そのストレスを食べることを巡るこだわりに置き換え,発症するケースも多くみられる。
【摂食障害とは】
体重減少即ち摂食障害ではない。特に小児では糖尿病,尿崩症等,甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患や炎症性腸疾患,脳腫瘍,血液疾患などなど器質的疾患の鑑別や,虐待の有無など生活環境の聞き取りが重要である。摂食障害は大きくは制限型と過食型に分別され,小児ではほとんどが制限型である。発症要因も多岐にわたり,遺伝的,心理的,家族的,社会分化的要因などが挙げられる。またスポーツとの関係も特徴的である。
【当院での加療例について】
2004年4月から2014年3月までの10年間に,当院を受診した9歳~17歳までの摂食障害と診断され,入院加療を必要とした23名について,後方視的に検討を加えた。年齢的には15歳がピークであり,高度の痩せを呈したのは女児だった。ダイエットや家庭でのストレスが発症の要因となっており,自傷他害等の問題行動を伴う症例は少なかった。11名が,現時点では完全に治癒しており,その他通院が途絶えた症例などが問題であったと思われた。
【やせの小児の身体への影響について】
成長障害や二次性徴の遅延,長期間の低エストロゲン血症がもたらす骨量減少など内分泌系への影響や,除却や不整脈といった循環器系への影響がある。致死的不整脈は摂食障害児の死因の1位となっている。
【治療】
治療の4本柱は「からだ」,「こころ」,「家族」,「社会」である。摂食障害は,ストレスを心で悩み解決する代わりに,飢餓により身体を破壊する自己破壊病であることから,当科では,入院治療中は,その身体破壊にリミット設定をする身体治療を中心とする。在宅治療では,家族とのスキンシップや安静保持,社会復帰を目標とした心の治療を中心として進めていく方針としている。
【予後】
全体の予後は成人例よりもよいが,死亡率は高いことがわかっている。死因は不整脈などの突然死(54%),自殺(27%)などであり,予後不良因子として,発症年齢が遅い,罹病期間が長い,身体疾患の合併,虐待を受けた過去や精神障害の合併等がある。
【まとめ】
「摂食障害は静かな安楽死」である。発症には多様な要因が複雑に絡み合い,2つとして同じケースはない。こどもの摂食障害の有効な治療は,予防と早期発見に尽きる。周りの大人たちの「気づき」で,深刻な状況に陥る前に,医療機関へ相談を。家族と多職種のスタッフが協力し,根気よく,愛情を持って患児と接することで,治すことができる「疾患」であることを,知ってほしい。


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