令和元年度 第2回市民公開講座の様子

令和元年度 第2回岐阜市民病院公開講座実績

令和元年度第2回(通算100回)岐阜市民病院公開講座を開催しました

日時
令和元年5月25日(土)
午後2時30分~午後4時
講演内容
"心臓を守る"お薬の話 ~心不全の薬物療法~
心不全センター長 湊口信也
重症心不全に対して、今できること ~非薬物療法のすべて~
第一内科部長 西垣和彦

令和元年度第2回(通算100回)岐阜市民病院公開講座を開催しました。
令和元年5月25日(土)、岐阜市民病院内西診療棟4階サルビアホールにおいて、心不全センター長 湊口信也から、「"心臓を守る"お薬のお話 〜心不全の薬物療法」を、第一内科部長 西垣和彦から、「重症心不全に対して、今できること 〜非薬物療法のすべて〜」を、テーマに講演を行いました。当日は参加者数、約90名と多くの方にお集まりいただきました。
また、講演会終了後、質疑応答を受けるとともに、アンケートにもご協力いただき、盛況のうちに終了できました。
なお、次回は、令和元年6月15日(土)に、眼科部長 川上秀昭から、「糖尿病が原因で発症する目の病気について( 失明原因第2位の糖尿病網膜症を中心に)」を、テーマに講演を予定していますので、ぜひご参加ください。

(講演内容については、要約を掲載

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挨拶及び講演をする
心不全センター長 湊口信也
講演をする
第一内科部長 西垣和彦
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質疑に答える講演者

講演要約

「"心臓を守る"お薬のお話 〜心不全の薬物療法~」
岐阜市民病院心 不全センター長 湊口信也

アメリカ心臓病学会(AHA)および日本循環器学会・心不全学会のガイドラインでは、心不全の病期を、ステージA、B、 C、Dと分類している。ステージAは、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患はあるが心筋、心膜、弁の機能など心臓の構造的異常を認めておらず症状のない状態、ステージBは、左室肥大、心拡大、弁膜症、陳旧性心筋梗塞、心機能低下などの構造的異常はあるが、症状が未だない状態、ステージCは、構造的異常があり、症状の出現がある状態、ステージDは、構造的異常があり、十分な薬物治療をおこなっても安静時の症状がある状態である。心不全に対して推奨される薬物療法は、このステージ分類に応じて投与する薬剤が決定される。ステージAではACE阻害薬あるいはARBが、ステージBからはß遮断薬が、ステージCからは利尿薬、アルドステロン拮抗薬、経口強心薬が使用される。もちろん、ステージCではステージA、Bで使用されている薬剤は併用して使用されるし、ステージDでは、ステージA, B, Cで使用される薬剤をすべて使用できる。
ACE阻害薬あるいはARBはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAA系)を阻害し、高血圧の促進因子である高血圧を低下させることができる。さらに、ACE阻害薬あるいはARBが使用された場合は、RAA系の行き過ぎた亢進を和らげることができ心臓保護作用がある。また、ACE阻害薬あるいはARBには血管を拡張する作用があることから心臓に対する後負荷(負担)を減らして心臓が拍出しやすくなる。これらの薬剤は心不全の生命予後を改善する。ß遮断薬は心臓のß受容体をブロックする薬剤である。心不全では交感神経が活性化しカテコラミンが増加している状態であり、心臓を鞭打つ状態であるといえる。ß遮断薬はこの状態をブロックして、心臓を楽にして休ませてやる作用を有するため、生命予後は改善される。経口強心薬(ジギタリスなど)は心臓の収縮性を増強させることができるが、長期間の生命予後についてははっきりとしたエビデンスはない。利尿薬は血管内の水分量を体外に出すことによって、心臓の内圧が低下し、左心不全の肺うっ血、右心不全の四肢の浮腫を軽減することができる。最近では、ループ利尿薬に加えて水利尿作用を有するtolvaptanが使用できるようになり新しい治療ができるようになってきた。アルドステロン拮抗薬は、利尿作用を有するとともに、アルドステロン受容体を遮断することにより心不全の生命予後を改善する作用がある。このように、心不全のあらゆるステージで薬物療法は有益な治療方法である。

「重症心不全に対して、今できること~非薬物療法のすべて~」
岐阜市民病院 第一内科部長 西垣和彦

心不全とは、あらゆる心臓疾患の終末像であり、心臓のポンプ機能が低下することで臓器への血液供給が低下している病態です。現在では、薬物療法の確立によりある程度の予後改善は達成されていますが、わが国においてさえも未だに不良です。本講では、重症心不全に対して今できることとして、心不全に対する非薬物療法に関して概説致します。
①運動療法・心臓リハビリテーション
 心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は、あらゆる心疾患の予後改善が期待できるクラスI、エビデンスレベルAの治療法であり、心事故回避、再入院回避に対して著しく有効です。心リハは、狭義には心臓のポンプ作用を補助する"第2の心臓"である"足"の筋肉を鍛えるものですが、近年は包括的心リハが、心リハに携るスタッフ(医師、看護師、理学療法士、栄養士など)により、急性期・回復期・維持期を通して行われます。適正な運動処方における運動強度は、エルゴメーターもしくはトレッドミルを用い、呼気ガス分析を併用して行う心肺運動負荷検査(CPX)で得られます。岐阜市民病院では中央診療棟3階に心リハ室を新しく開設する予定であり、現在工事中です。
②心臓再同期療法(CRT)
 重症心不全の心臓は、高度な心筋リモデリングの結果、右室と左室の収縮が同期しておらず、有効な拍出が困難な状態となっています。体内に埋め込んだペースメーカから電気を右房と右室、そして左室に挿入した全部で3本のリード線に送り、両室の収縮を同期させる治療法が心臓再同期療法(CRT)です。これにより心機能は改善を認め、心不全による再入院も減少します。
③睡眠時無呼吸/陽圧呼吸
 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まった状態(無呼吸)が繰り返される病気です。就眠時のいびきや不眠、夜間睡眠中の中途覚醒、日中の眠気、起床時の頭痛や熟睡感がないなどの症状で気づかれます。睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病に高率に合併しているだけでなく心不全にも多く合併し、心不全の予後が悪くなることが知られています。治療法としては在宅持続陽圧呼吸療法の効果が高く、ASV(二相式気道陽圧呼吸療法)が用いられています。
④補助循環/補助人工心臓
 心不全末期となり、心臓からの拍出が著しく低下した場合用いられるものが補助人工心臓です。現在、わが国では非拍動型、連続流の植込型補助人工心臓が用いられ、近年体外ユニットが軽量なものが開発されたことで社会復帰が可能ですが、心移植までのつなぎ(ブリッジ/bridge)としての使用でしか使用が認められておりません。しかし、その予後の改善が著しいことから、今後は移植登録の可能性が全くない場合でも、半永久的使用が認められる方向に向かうものと思われます。
⑤心臓移植
 心臓移植は、従来の治療法では救命ないし延命の期待が持てない重症心不全患者に行われる、QOLの面からも医療経済効率的にも優れた、世界的に既に認知・確立された標準的治療法です。わが国では和田移植を教訓にして、非常に厳しいレシピエントの適応基準が守られています。2010年より施行された改正臓器移植法では、『脳死は人の死』と認めた上で、家族の承認により臓器提供できる推定同意が採用され、15歳未満でも家族の同意で臓器提供できるようになりました。現在、全国11施設で年間50件程度の心臓移植が行われていますが、500人程の待機があり、長い待機期間を余儀なく強いられています。心臓移植は、ドナーとドナー家族からの"ギフト・オブ・ライフ(生命の贈り物)"で成り立つ医療であり、決してドナーとドナー家族の英断を忘れるべきではありません。つまり、ドナーの付託に応えられるレシピエントに対して行う治療、それが心臓移植です。


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