放射線と検査の話

はじめに

岐阜市民病院中央放射線部では、人体に影響があると言われている放射線(X線)を使って検査を行っています。放射線検査は、患者さんの病気やけがを正しく診断し、治療に役立てていくために行うものです。しかし、医用放射線には被ばくにより患者さんの遺伝子に障害を与える(被ばく)という負の側面があります。放射線発見当時は、病気の画像化が注目されましたが、その組織障害性が明らかになるにつれ、放射線の副作用を最小限にし、患者さんに最大限の利益を与える事を目的に発展してきました。実際私たちが検査に使用する放射線(X線)の量は、身体に影響が出る(確定的影響)と言われている量よりもはるかに少ない量を使用しています。さらに、必要な場所にのみ必要最小限のX線量の放射線を使用して検査を行っています。
寺田寅彦は『小爆発二件』の中で「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」と述べています。これは浅間山の爆発に触発された感想ですが、放射線の問題の急所を突いています。「こわがらな過ぎたりもだめで、こわがり過ぎてもだめ」ということです。
皆さんの放射線理解に少しでもお役に立ってくれればうれしいです。

参考 青空文庫 寺田寅彦『小爆発二件』    
岐阜市民病院 中央放射線部

1.病院で使用する放射線機器

① 単純撮影装置(一般撮影検査)

X線が1方向から身体を通り抜けます。

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胸部

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腹部

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胸部X線検査の様子

② CT (Computed Tomography)装置

あらゆる方向からX線が身体を通過します。身体の輪切り(断面像)を見ることができます。

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頭部(短軸像)

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CT検査の様子

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腹部(短軸像)

③ 透視撮影装置(X線TV検査)

バリウムが流れていく様子を、X線を身体に照射しながらリアルタイムに観察します。

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上部消化管造影(胃)

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下部消化管造影(大腸)

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上部消化管造影検査の様子

④ 核医学画像診断装置

1 ラジオアイソトープ検査(RI検査)

放射線を出す性質のある物質(ラジオアイソトープ:RI)を含む薬(放射性医薬品)を使う検査です。この薬品を体内に投与すると、特定の臓器や組織に取り込まれ、取り込まれた体内の組織や臓器から体外に向かって放射線(ガンマ線)を出します。それをガンマカメラという特別なカメラで測定し、その分布を画像化します。

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骨シンチグラフィ

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RI検査の様子

2  PET-CT検査

PET-CT検査とは、身体に放射線(陽電子)を出すFDGというお薬を注射して、全身を測定しFDGの分布を画像化します。FDGはブドウ糖とほぼ同等の物質で、がんや炎症部位に集まる性質があります。PET検査のみでは臓器境界が分かりにくいので、同時にCTを撮影し、融合画像にすると糖代謝の亢進した部位が正確に分かります。

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PET-CT検査の画像

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PET-CT検査の様子

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参考:放射線を使用しない医用画像装置

MRI (Magnetic Resonance Imaging)装置

『強い磁場』と『エネルギーの低い非電離放射線(ラジオ波)』を使います。
電離放射線による被ばくはありません。

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頭部(短軸像)
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MRI検査の様子
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脳血管画像

超音波診断装置 (Ultrasound:US装置)

放射線ではなく超音波を使用します。超音波は空気や物質の振動波であり、人の体には無害といわれています。

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腹部(肝臓)
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超音波検査の様子

2.医用電離放射線の種類

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3.放射線の性質と身体への影響

電離作用

放射線が物質を通過する時、もっているエネルギーで通り道の電子を弾き飛ばします。これが電離作用です。

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放射線の人への影響は、主に細胞のDNA分子の一部が変化してできた傷が多く蓄積することによって現れます。放射線がDNA分子を変化させる仕組みについては、2種類あります。

A 直接作用

放射線が直接遺伝子(DNA)に衝突して傷つけます。

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B 間接作用

身体の中の水分子に放射線が衝突すると、電離が起き活性酸素が発生します。この活性酸素が遺伝子であるDNAの鎖を切断し、細胞の指令塔であるDNAを傷つけます。

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直進する

放射線は空間を直進します。X線発生装置では、決められた方向へ、放射性物質(ラジオアイソトープ)からはあらゆる方向に放射線が放出されます。また、放射性物質が微粒子の場合は、大気中に漂い、風速・風向き・雨の影響で拡散します。つまり放射線がでる場所が移動します。
(原子力発電所の事故で大気に放出された放射性物質は、数カ月の間に地球の広範囲に広がっていきます。)

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透過性

放射線は物質を通りぬける性質があります。この性質を利用して単純撮影やCT検査で身体の内部を調べます。

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ホームページ(http://my.noevirstyle.jp/81823023/archive/192)を引用

蛍光作用(蛍光物質を光らせる)

物質に放射線をあてると、その物質に特有な波長の光が放出される現象を蛍光作用といいます。
レントゲン博士は、放射線の蛍光作用を契機にX線を発見したといわれています。
電離放射線による電離作用と蛍光作用を利用して、目に見えない放射線量を測定しています。

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被ばくの形態(放射線を身体に受けることを被ばくといいます)。

内部被ばく

空気中には天然放射性物質であるラドン、食べ物には天然の放射性物質(カリウム)があり、私たちは常に呼吸や食事により、放射性物質を体内にとりこみ、自然放射線の被ばくを受けています。身体の内部から放射線を受けることを内部被ばくといいます。
原発事故が起きると、放射性物質が飛散します。放射性物質の中に放射性ヨウ素やセシウムというものがあり、ヨウ素は甲状腺に、セシウムは筋肉など全身に蓄積して身体の内部から放射線を出し、身体は内部被ばくを受けます。

外部被ばく

外部被ばくは、自然放射線によるもの、医療に用いられているX線検査、CT検査によるもの、昭和20年に広島、長崎に投下された原爆によるものなど体の外側から受ける被ばくをいいます。日本では、CTの普及が著しく国民皆保険の影響もあり、外部被ばくである医療被ばくが多いことが問題として提起されています。

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身体への影響:確定的影響と確率的影響

確定的影響:臓器の機能障害です。
      通常の放射線検査の放射線量では出現しません。
      がんの放射線治療では出現します(皮膚炎、脱毛、食道炎など)
確率的影響:がんや白血病の発生

放射線の副作用をゼロにすることは現代の科学では不可能です。私たち中央放射線部では、放射線の被ばく量に常に注意を払い、放射線を使用する検査を行う場合に、妥当な検査か、余分なところに放射線を照射していないか、必要最小限の放射線量を照射しているかを確認するよう今後も努力してまいります。努力により被ばくのリスクを最小限にし、放射線から得られる利益を最大限にすることが、目標です。

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4.放射線の単位

(やや専門的、読みとばしていただいてもいいです。)

吸収線量(臓器吸収線量)(単位 グレイ 略称 Gy)
放射線が人体に与えるエネルギー量。
直接測定できる放射線量です。被ばく部位の臓器障害(確定的影響)を予測できます。
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等価線量(放射線荷重係数)  (単位 シーベルト 略称 Sv)
人の組織や臓器に対する放射線の影響が放射線の種類によって異ならないように、おのおのの組織や臓器が受けた吸収線量に放射線荷重係数を乗じて臓器ごとに算出する計算値です。係数はX線・ガンマ線・ベータ線は1、アルファ線が20です。 hou-kensa04-03.png
実効線量(組織荷重係数)  (単位 シーベルト 略称 Sv)
上記の臓器ごとの等価線量に臓器の放射線感受性の重み付け(組織荷重係数)を乗じてすべてを加算した計算値です。放射線によりがんを誘発しやすい臓器に高い係数がついています。例えば脳は0.01ですが、骨髄は0.12であり、骨髄に比較して脳は放射線被ばくでもがんになりにくいということです。臓器をすべて加算することで、全身の被ばく量に換算されるわけです。全身の確率的影響の指標とみなされています。あくまでも被ばく管理に使用する数値であり、この数値ががん発生を予測するものではありません。 hou-kensa04-03.png

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放射能   (単位 ベクレル 略称 Bq)

1秒間に放射される放射線の数のことをいいます。

Gy、 Svは放射線に人が被ばくする量ですが、Bqは土、食品、食道水などに含まれる放射線物質の量を表し、放射線を出す側に着目した単位です。放射性物質によりその実効線量への換算係数を乗ずることにより、人への被ばく量を推測します。

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5.外部被ばくから身を守るには

体の外側からの放射線(外部被ばく)から身を守る方法として、『放射線防護の3原則』と呼ばれているものがあります。それは、放射性物質から距離をとること、放射線を受ける時間をできる限り短くすること、放射線を遮ることです。

1.放射線から距離をとること

放射性物質から距離をとり離れることで放射線量が減ります。距離が2倍になれば放射線量は4分の1になります。(距離の二乗に反比例)

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2.放射線を受ける時間を短くすること

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3.放射線を遮ること

コンクリートなどの建物の中に入ることにより、自然放射線を遮ることができます。
(木造に比べてコンクリートのほうが放射線をとおしません。)

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6.放射性同位元素と超新星爆発

(急ぐかたは、読みとばしてください。)

物質が原子からできていることは、よく知られています。すべての原子は原子核と電子からできています。真ん中に原子核があってまわりを電子が回っているようなイメージです。物質には100以上の種類がありますが、原子番号と呼ばれる数字が付けられています。原子番号1番が水素です。原子番号とは陽子の数なのです。水素は1個の陽子と1個の電子からなっている宇宙で最も多い最も単純な構造の原子です。

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次にカリウムのことを話します。カリウムとは植物の肥料の3要素(窒素、リン酸、カリウム)の一つであることは有名です。生物の細胞のなかには多く含まれています。原子核は19個の陽子なので原子番号は19で、原子核の周りを回る電子の数も19です。原子核の陽子の数と周りを回る電子の数は同じ数で電気的に中性になります。また原子核の安定化のために水素とは異なり中性子が必要になってきます。しかし地球の天然にあるカリウムには中性子の数が20個、21個、22個の3種類のカリウムの存在が知られています。この3種類のカリウムを陽子と中性子の数の和(陽子数+中性子数)で表します。19+20=39、 19+21=40、  19+22=41なので、それぞれカリウム39、カリウム40、カリウム41と呼ぶことにします。地球上にあるカリウムのほとんどがカリウム39です。
カリウム39とカリウム41は構造的に安定したカリウムですが、10000個に1個の割合で含まれているカリウム40は、構造上原子核が不安定なのです。この不安定な原子は、ベータ線とガンマ線という放射線を出してアルゴンやカルシウムという安定な原子に変化していくのです。

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同じ種類の原子でも原子核が、不安定で放射線を出す原子を放射性同位元素といいます。カリウム40は天然の放射線を出す物質で、人の身体にも多く含まれています。身体のなかで放射線がでているわけです。でもどうして放射線を出す物質が天然にあるのでしょうか?そのお話をしたいと思います。
現在の宇宙が生まれたのが100億年以上前で、地球が生まれたのが45億年前です。地球が生まれる前の話です。夜空を見上げると星がたくさん見えます。星の大部分は太陽のような恒星というガスの固まりです。恒星には誕生から消滅の一生があります。誕生した恒星は水素ガスの固まりです。重力のエネルギーで中心部では水素が押しつぶされて核融合が起き、ヘリウムになります。恒星というのは核融合によるエネルギーで燃えているのです。核融合により、次々と大きく重い原子が星の内部で作られていき、最後に最も安定な鉄の核が作られます。しかし鉄は核融合反応をおこしません。

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その代わりに内部に蓄積されたエネルギーで恒星は大爆発を起こし吹き飛んでしまうのです。この大爆発を超新星爆発といいます。

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http://silver0480.blog80.fc2.com/blog-entry-62.html(2011/07/18)より引用 

この爆発により途方もないエネルギーが生み出され、原子と原子が衝突し合い、新たな原子が生み出されます。放射性物質であるウランやカリウム40もこの超新星爆発で作られたものと考えられています。そうです!地球が誕生する以前に超新星爆発によりたくさんの放射性同位元素が作られ宇宙空間にばらまかれていたのです。そして宇宙空間にただよう放射性同位元素を含む塵のような星間物質が重力により集まり太陽ができ、太陽に吸収されなかった物質が集まって惑星である地球ができたのが45億年前です。その地球の上に生命が誕生し、人が誕生します。人を作っている原子は45億年前の地球に存在したものと同じ原子です。その変わらない原子の中で唯一変化していく原子が放射性同位元素といえるでしょう。人間は超新星爆発でできた放射性同位元素であるウラン235を濃縮して原子爆弾や原子力発電に利用しています。またアイソトープ検査で最も使用される放射性同位元素は放射性テクネチウムです。これは原子爆弾の材料になる高濃縮ウランによる原子炉で作られているものを輸入しています。日常の医療にも電力と同様に原子力が利用されているのです。

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7.自然放射線と人工放射線

自然放射線について

前章は壮大な宇宙の物語ですが、人と放射線の話に戻りましょう。人の身体の中にはたくさんのカリウム原子があります。カリウム原子の1万分の1個は放射性物質であるカリウム40なのです。カリウム40からはベータ線やガンマ線が出ており、人の身体の中からは1秒間に何千もの放射線が出ています。つまり人は自分の身体の成分の一部であるカリウム40から常に被ばくをうけているのです。これは内部被ばくです。福島の原発事故で問題になっているヨウ素131、セシウム134、セシウム137も身体に取り込まれることによって内部被ばくを起こす放射性同位元素です。天然の放射性ウランは放射線を出しながら変化し最終的には安定な鉛に変化しますが、その途中で不安定な放射性ラドンという気体になり、大気中に拡散します。人は呼吸で放射性ラドンを肺にとりこみ、放射性ラドンはアルファ線をだすので、人の肺は常に放射性ラドンから内部被ばくを受けています。
また、岩石には少量の放射性ウラン、放射性ラジウム、放射性カリウムが含まれていますので、それを利用する土壁やコンクリートなどの家屋の材料からも常に放射線が出ています。屋外にでれば太陽や超新星爆発を起源とする放射線が降り注いでいます。地球上で生活するすべての人はどこにいても外部被ばくと内部被ばくを受け続けているわけです。この放射線を自然放射線と呼んでいます。

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上記は日本全国の大地からの自然放射線量です。岐阜県は日本でも最も多く大地から放射線を受けており、年間0.4mSv以上となっています。
年間の自然放射線被ばく量は世界平均で2.4mSv、 日本の平均は2.1mSvです。
身近な自然放射線の例に、ラジウム温泉やラドン温泉があります。温泉水の中に放射線を出すラジウムやラドンが含まれています。温泉につかって身体をいやすわけですが、微量の被ばくを受けるわけです。微量の被ばくは免疫力を高める効果がうたわれ、この考え方を放射線ホルミシスといいますが、微量の被ばくに関しては正確なことがわからないのが実状です。

人工放射線と医療被ばく

以上が天然に存在する自然放射線の話でした。医療で使用する放射線の話にうつります。単純撮影とCT検査のX線という放射線は真空管の一種のX線管に高電圧をかけて発生させます。

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また、核医学検査で体内に投与される放射性同位元素の60%が放射性テクネチウム(Tc)です。放射性テクネチウムは高濃縮ウランを利用した専用の原子炉で作られた放射性モリブデンを材料として作られています。このように医療用に使用される放射線はもともと自然にはなく人が作り出したものなので人工放射線といわれます。人工放射線は医療以外でも工業(タイヤゴムの強化)、農業(γフィールド)にも使用されています。航空機の搭乗時には、手荷物検査にX線検査がありますね。原水爆実験や原子力発電所で発生する放射線も人工放射線に含まれます。
単純撮影でX線が数10分の1秒間身体を通過します。CTではX線が10秒ほど身体を通過します。核医学検査では身体の中に放射性同位元素があり、身体の内部から数日間放射線が出ています。これらの検査では、放射線が身体の細胞を通過し、細胞は被ばくを受けています。これが医療被ばくです。

日本は、世界でも例のない国民皆保険を実行している国です。また、世界のCT総数の1/3を有しており、日本全国で最先端のCTによる画像診断が施行されています。その影響もあり国民の医療被ばくは世界一となっています。

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医療被ばくが健康に及ぼす影響を推測することは現時点では困難です。しかし日本では、医療被ばくによりがんが多発しているだろうという報告が見られます。仮に被ばくによるがんの影響があったとしても、検査によりがんが発見され、致命的になる前に管理されることになるので、利益の方が多いはずだ、というのが現時点での日本の医療の一般的な考え方と言えます。 

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国連科学委員会(UNSCEAR)2008年報告
(公財)原子力安全研究協会「生活環境放射線」(平成23年)より作成

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8.確定的影響と確率的影響

(少し難しいですが大切な内容です!)

放射線には電離作用があることを第3章でお話ししました。放射線の電離作用により身体の中で身体の60%を占める水分子の酸素から活性酸素が発生します。活性酸素は物質と反応しやすい不安定な酸素の化合物で、細胞の司令塔である遺伝子(以下DNAとします)の鎖を切断します。しかし活性酸素は放射線によってのみ発生する訳ではありません。正常に人間が生きていくためのエネルギーを作る過程で必ず発生します。また白血球は活性酸素を作って身体に侵入した細菌の遺伝子を破壊して人間の身体を守っています。つまり活性酸素は人間に必要なものである一方、遺伝子を傷つける性質がある二面性をもった物質なのです。しかし高等生物はDNA修復酵素を持っており、DNAが切断されてもすぐに元通りに直す力を持っているのです。いまこの瞬間もDNAの鎖は自然放射線、人工放射線、紫外線、薬、喫煙、ウイルス、発がん物質などによりどんどん破壊され、またそれをどんどん直すという作業が全身の細胞のなかで行われているのです。一説によれば一個の細胞で一日50万カ所の切断と修復が行われているといいます。そうやって絶え間なくDNAは破壊され、直されて人の全ての細胞の中で働き続けているのです。

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DNAを切断された細胞の運命には3通りあります。1つ目は修復酵素で治る。2つ目は細胞死、3つ目は突然変異によるがん化です。専門用語では2つ目の細胞死による臓器不全を「確定的影響」、3つ目のがん化を「確率的影響」と呼んでいます。さてここからが放射線の身体への影響の最も根幹のところです。

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確定的影響について(ここで使用される線量は吸収線量であり、単位はGyです)

確定的影響とは、放射線の被ばくによりDNAが切断され、臓器にたくさんの細胞死がおこって臓器が機能不全に陥ることです。臓器によって影響がでる放射線量が決まっており、影響が出る可能性のある最も少ない線量を「しきい線量」といいます。確定的影響では被ばく線量がしきい線量を超えて多くなるほど臓器の機能は低下し、症状が重くなります。代表的な確定的影響には皮膚障害、消化管障害、骨髄障害があります。少ない被ばく量では皮膚炎(やけどのようなもの)、一過性の脱毛、下痢などが起こります。被ばく量が多くなると皮膚に潰瘍ができたり、永久脱毛になったり、下血が起きます。このように被ばく量が多くなれば症状がひどくなるのが、確定的影響の特徴です。特に骨髄障害では血液機能が低下します。赤血球ができなくなれば貧血、白血球ができなくなると免疫力がなくなり、肺炎や敗血症になりますし、血小板がなくなれば出血が止まらなくなります。他には生殖器への被ばくで不妊、目への被ばくは白内障、胎児への被ばくは奇形や流産を引き起こします。
第6章でお話したように私たちは常に自然放射線を被ばくしています。1年間に2.1mSvでした。この量を覚えておきましょう。2.1mSvといわれてもピンとこないですね。自然放射線は1年かけてゆっくりと浴びる放射線です。
確定的影響にはしきい線量があります。最も少量の被ばくで影響を受けやすいのは胎児です。胎児は特に妊娠初期で影響を受けやすく、100mGy以上で流産や奇形発生の可能性が出てくるといわれています。

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胎児以外のしきい線量ですが、精巣の永久不妊は3500mGy、卵巣の永久不妊は2500mGy、白内障は6000mGy、骨髄は500mGy、皮膚は3000mGyです。このように100mGyというのが、人に影響を与える可能性のある最低線量ですが、妊娠、胎児の次に影響を受けやすいのが骨髄になります。骨髄は500mGyでリンパ球が一過性に減少しますが、自然に回復します。一般に1000mGyの量を全身被ばくしても症状に乏しく、明らかな後遺症は残りません。代表的な臓器のしきい線量を表にしました。

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胸部単純写真で撮影による最も多い被ばく部位は皮膚で0.3mGy、また放射線検査の中ではCTが最も被ばく量が多く、なかでも頭部CTによる脳の被ばくが最も多く、47mGyです。このように通常の放射線検査の被ばく量(吸収線量)は100mGyを有意に下回ります。従って放射線検査では確定的影響は通常ないと考えられます。単純写真やCTでは撮影部位のみの被ばくです。被ばく量の多いCT検査でも、頭部や胸部CTでは骨盤の被ばくは微量であり、胎児に影響はありません。

また繰り返す検査の場合は検査間でDNAの修復が起こりますので、被ばく量は積算せず、1回1回の放射線量を新たな被ばく量として考えればいいのが確定的影響の特徴です。

確率的影響について(ここで使用される線量は実効線量であり、単位はSvです)

確率的影響とは放射線被ばくによりがんの発生が増加することです。最も考え方が難しく、正確にわかっていない領域です。わからないといろいろな意見が出てくるのが常です。

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正反対のさまざまな意見が雑誌、テレビ、インターネットで見ることができます。どちらが正しいのでしょうか。
ICRP(国際放射線防護委員会:国際連合の機関)は代表的な放射線管理の注意点を勧告する非営利団体ですが、 さまざまな意見を考慮しつつ、現時点では「どんな少量の被ばくでもがんになる確率が増える」という立場をとっています。つまり確率的影響であるがん発生の増加にはしきい値がないとする立場です。これを「しきい値なしの直線仮説」といいます。検査の確率的影響はそれぞれの被ばく部位の吸収線量を全身被ばくへの実効線量に計算式で換算して、その指標にしています。現時点では様々な情報を解析してみても、100~200mSv以下の放射線被ばくでがんの発生が増えるかどうかの決定的な証拠は得られていません。しかし放射線の管理上は少量の放射線にも危険性があることにして、無駄な放射線被ばくを少なくしようとするための施策といえます。
長崎・広島の原子爆弾による被爆者の追跡データの解析では100~200mSv以上の瞬間被ばくでは、がんの発生が増加することが分かっています。たくさん被ばくした場合のがんの発生の割合をそのまま少量の被ばくにまで適応していくと、1mSvの全身被ばくで10万人に5人のがんによる死亡の増加と計算されます。10万人に5人のがんの発生の増加とはどういう意味でしょうか?現在日本国民はおおよそ3人に1人ががんで死亡します。すると10万人の人は生涯でその3分の1の33333人ががんで死亡します。その10万人の人が1mSvの全身被ばくをした場合、生涯がんでなくなる人数が33333人に5人加えた33338人に増えるということが、「1mSvの全身被ばくで10万人に5人のがん死の発生」という現実的な解釈となります。運転免許を持っている人が交通事故を起こしてしまう確率(2019年0.46%:公益社団法人交通事故総合分析センターの統計より)と同じくらいで、車を運転する限り、低いながら交通事故を起こしてしまう可能性があります。そういう感覚と考えていただいていいと思います。

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この考え方を自然放射線に適応すると、日本の場合、自然放射線の影響で10万人あたり8人ががんにより死亡していることになります。ただし自然放射線は国による差が大きく、日本を基準にすると数倍から100倍以上の地域があるのですが、自然放射線が原因と考えられるがんの発生の増加というものは証明されていません。
がんというのは単一の原因ではなく、様々な要素(紫外線、薬、喫煙、ウイルス、発がん物質・・)により、DNAの切断が多発して修復ミスが蓄積した結果、突然変異として発生するものと考えられています。放射線もその一原因と考えられています。DNAは切断されてもすぐに酵素で修復されますので、修復ミスによる致命的な切断が蓄積するには長い年月がかかります。がんになるのは70~80歳など高齢者が多い理由です。年間2。1mSvの自然放射線を80歳まで浴びるとすると、168mSvですね。自然放射線でも一生の被ばく量は100mSvを越えます。100mSv以上の瞬間的な被ばく(原爆)からはがんの発生の増加があるようなのですが、自然放射線のような「微量の放射線を長期にわたって被ばくした影響に関しては分かっていない」というのが正しい現時点での見方です。ここで注意が必要なのは確定的影響と異なり、確率的影響の考え方では繰り返す検査の場合はその実効線量を積算するということです。なぜなら直らないDNAの修復ミスを数えるからです。子供の場合は人生が長いですね。長い人生で医療被ばくを繰り返していくと被ばく量も多くなっていきます。子供の場合は、大人よりも特に被ばくに注意を払う必要があります。

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9.放射線Q&A

質問1(一般撮影検査)

先日、肺炎を疑われ胸部レントゲン検査を受けました。肺炎はひどくなく安心したのですが、その後、被ばくの影響が気になりはじめたのですが大丈夫でしょうか?

回答

肺炎というのは抗生物質がない時代に、死のやまいでした。今はX線により早期に発見し抗生物質で治療できます。
【確定的影響について】
胸部レントゲン検査(胸部X線単純撮影)の場合は生殖腺の被ばくはありません。皮膚や骨髄の臓器吸収線量はそれぞれ0.3mGy、0.01mGyです。しきい線量はそれぞれ3000mGy、500mGyですので、確定的影響はありません。
【確率的影響(がん)について】
100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。実効線量0.03mSvとすると、上昇するがんの発生率は0.00015%となります。今回の検査による被ばくががんの発生につながったかどうかを判断することがわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。 
☆胸部写真をとるという行為は、肺炎による死亡のリスクと低線量被ばくによるがん発生のリスクを比較した場合、前者をより重要と考えます。小児の胸部X線単純撮影では、使用する放射線量を極力減らしたり、下図のようにX線の照射範囲をなるべく限局することを行なっています。

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(日本放射線安全公衆安全学会編:医療従事者のための医療被ばくハンドブックより改変)

質問2(一般撮影検査)

子供が飛んだり跳ねたりして遊んだ数日後に股関節を痛がり、股関節のレントゲン検査を受けました。精巣、卵巣など生殖腺は被ばくによる副作用が起こりやすいと聞いて不安なのですが大丈夫でしょうか?

回答

股関節の変形は運動機能障害をきたし日常生活に大きく影響を及ぼしますので、股関節の大腿骨頭の形状に異常がないかを調べることが最も大切です。
【確定的影響について】
股関節の撮影の場合、生殖腺などの臓器がX線を照射する範囲に入るためにある程度の被ばくは避けられません。しかし、下図に示す通り幼児股関節の生殖腺の被ばく線量は卵巣0.05mGy、精巣0.1mGyと示されています。不妊がおきる可能性のある最低線量は精巣、卵巣で3000mGyですので確定的影響はありません。
【確率的影響(がん)について】
乳幼児の股関節レントゲン検査の実効線量は0.01mSvです。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。実効線量0.01mSvとすると、上昇するがんの発生率は0.00005%となります。今回の検査による被ばくががんの発生につながったかどうかを判断することがわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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質問3(一般撮影検査)

妊娠中に、胸部レントゲン検査を受けました。お腹の赤ちゃんには影響ないのでしょうか?

回答

 X線は胸に向かって照射され、骨盤には照射されていません。しかし、微量のもれ(散乱線といいます。)が骨盤にもあたります。
【確定的影響について】
胸部X線単純撮影で胎児がうける被ばく線量は0.01mGy以下で、放射線によって胎児に影響がでるとされる線量(しきい線量)100 mGyを超えることはなく、胎児への放射線の影響を心配する必要はありません。
【確率的影響(がん)について】
実効線量は0.01mSv以下となります。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。実効線量0.01mSvとすると、上昇するがんの発生率は0.00005%となります。今回の検査による被ばくががんの発生につながったかどうかを判断することがわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。
☆しかし当院では、少しでも必要のない被ばくを減らすために、鉛エプロンを用いて骨盤部分の遮へいを行っています。

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質問4(一般撮影検査)

供が胸部レントゲン検査を行う際に、付き添いでX線撮影室に入室しました。X線撮影室では壁や床などから常に放射線が出ているのかと心配なのですが・・。

回答

病院で使っているX線単純撮影やCT撮影などのX線発生装置は、ちょうど部屋の中にある電球と同じように、スイッチを入れた時だけX線が出ています。 電球のスイッチを切った瞬間に光が消えて暗くなるのと同様、X線も発生装置のスイッチを切ると瞬時になくなってしまいます。 ですから、X線が室内にいつまで漂っているということはありません。

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質問5(マンモグラフィ)

マンモグラフィを受けたのですが、被ばくの影響が気になり始めたのですが大丈夫でしょうか?

回答

マンモグラフィ検査は、専用のX線撮影装置で乳房を圧迫しながら撮影を行います。X線は乳房にのみ限局して照射するため、他の臓器に影響が出ることはありません。
【確定的影響について】
乳腺が受ける被ばく線量(吸収線量)は1~2mGyなので確定的影響はありません。
【確率的影響(がん)について】
実効線量は0.12mSvです。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。実効線量0.12mSvとすると、上昇するがんの発生率は0.0006%となります。今回の検査による被ばくががんの発生につながったかどうかを判断することがわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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質問6(CT検査)

先日、子供が転んで頭をぶつけて怪我をし、病院にて頭部CT検査を受けました。骨折などはなく安心したのですが、その後、被ばくの影響が気になり始めたのですが大丈夫でしょうか?

回答

頭をぶつけたことによる脳挫傷などの重症度を確認する必要があります。脳の障害は運動、知能などを障害し、子供の発育に大きく影響します。まずはこの確認が最も大切です。
【確定的影響について】
5歳児の頭部CT検査は生殖腺の被ばくは、ほぼ0であり、骨髄に1.6mGyの被ばくをしますが、骨髄に影響が出るしきい線量は、500mGyですので障害の心配はないと考えます。脳は27mGyの被ばくをしますが臓器全体のなかで放射線の感受性が低い(放射線の影響を受けにくい)臓器であり神経細胞に障害はおきないと考えられています。
【確率的影響(がん)について】
1回の頭部CTの実効線量は、0歳児では約1.77mSv程度、5歳児で約1.7mSv程度です。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。上昇するがんの発生率は0歳児で0.00885%、5歳児で0.0085%となり、この被ばく線量でがんの発生につながったかどうかを判断することはわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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☆生殖腺の被ばく線量はほぼ0なのですが、必要のない被ばくを減らすために、下の写真のような生殖腺防護を行っています。

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質問7(RI検査)

骨シンチグラフィという検査を受ける際、微量の放射性物質を投与するとのことですが大丈夫でしょうか?

回答

核医学検査で使用する放射性同位元素で最も頻繁に使用されるものは放射性テクネチウムです。放射性テクネチウムからはガンマ線が出ています。代表的な核医学検査である骨シンチグラフィで注射される薬液は骨にあつまる放射性物質です。放射性テクネチウムからでる放射線にはスイッチはありません。身体のなかに入った放射性テクネチウムからはずっと放射線がでています。しかし放射性テクネチウムは放射線を放出しながら、半減期6時間で放射線量を減らしながら尿中へ排泄され、短期間のうちに体内から消えていきますので心配はいりません。
【確定的影響について】
生殖腺は1.46~2mSv、骨髄は1.6mGyの被ばくをしますが、不妊がおきる可能性のある最低線量は精巣3500mGy、卵巣2500mGy、骨髄に影響が出るしきい線量は500mGyですので障害の心配はないと考えます。
【確率的影響(がん)について】
実効線量は2.38mSvです。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。上昇するがんの発生率は、0.0119%となりこの被ばく線量でがんの発生につながったかどうかを判断することはわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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質問8(PET-CT検査)

PET-CTという検査を受けましが、身体への影響は大丈夫でしょうか?

回答

PET-CT検査で使用する放射性同位元素はFDGとよばれる薬で、FDGからはガンマ線がでています。PET検査のみでは臓器境界が分かりにくいので、同時にCTを撮影するため、薬とCTの両方の被ばくを考える必要があります。身体のなかに入ったFDGからはずっと放射線がでています。しかしFDGは放射線を放出しながら、半減期110分で放射線量を減らしながら尿中へ排泄され、短期間のうちに体内から消えていきますので心配はいりません。
【確定的影響について】
投与されてから消えてしまうまでのお薬により生殖腺は4.6mSv、CTで5mSv、合わせて9.6mSv被ばくしますが、不妊がおきる可能性のある最低線量は精巣3500mGy、卵巣2500mGyですので障害の心配はないと考えます。
また甲状腺はそれぞれ2.56mSv、12.5mSvで合わせて15.06mSv被ばくしますが、甲状腺機能が低下するしきい線量は成人で25000〜30000mGyですので障害の心配はないと考えます。
脳はそれぞれ9.6mSv、3.56mSvで合わせて13.16mSvの被ばくをしますが臓器全体のなかで放射線の感受性が低い(放射線の影響を受けにくい)臓器であり神経細胞に障害はおきないと考えられています。
【確率的影響(がん)について】
投与されてから消えてしまうまでのお薬による実効線量が4.8mSv、CTによる被ばくが4.5mSvであり、合わせて9.3mSvです。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。上昇するがんの発生率は、0.0465%となりこの被ばく線量でがんの発生につながったかどうかを判断することはわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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質問9(血管造影検査)

心臓カテーテル検査(血管造影検査)という検査を受けましが、身体への影響は大丈夫でしょうか?

回答

腕や大腿部からカテーテルという細い管を心臓の血管(冠動脈)まで挿入し、造影剤を流して、X線を身体に照射しながらリアルタイムに観察します。造影剤によって冠動脈が映し出され、動脈硬化が進行して血管が狭くなって狭心症の原因となっている場所を見つけたり、心筋梗塞で詰まってしまった場所や障害をうけた場所を探したりします。心臓カテーテル検査の場合、皮膚への放射線被ばくを心配する必要があります。
【確定的影響について】
当院では、診断のために行うカテーテル検査では900mGy、血管が狭くなったり詰まったりした場所の治療を行った場合(PCIといいます)平均1600mGy程度、皮膚が被ばくしています。皮膚が紅くなる等の影響(紅斑)が出るしきい線量は3000mGyです。従って治療カテーテル(PCI)においては、3000mGyに近い線量が出る場合もあり、放射線皮膚炎が出る可能性がありますので、主治医が注意深く経過観察を行っています。
【確率的影響(がん)について】
実効線量は、診断カテーテルでは9mSv程度、治療カテーテルでは16mSv程度です。100mSvの放射線を一度に浴びた場合に上昇するがんの発生率が0.5%といわれています。上昇するがんの発生率は、それぞれ0.045%、0.08%となりこの被ばく線量でがんの発生につながったかどうかを判断することはわからないくらい低い確率であり、この少ない量でがんになる可能性は極めて低いと考えます。

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質問10(検査全般)

放射線検査で『がん』になる可能性はあるのでしょうか?

回答

可能性という言葉を考えると『ある』といえます。しかしそれは、例えは悪いかもしれませんが 「宝くじの1等に当たる」 あるいは「今日の運転で事故をする」というような可能性といえます。ほんの少しの被ばくでもがんになる可能性(確率)が増えるという考えのもとに被ばく管理をしていますが、ほとんどの検査の場合、実効線量は自然放射線量を大きく下回っており、有意にがんの発生を増加させる量とはいえません。日常生活において私たちは、様々ながんの原因に囲まれて暮らしています。その中で、放射線が原因でがんになる割合は2%程度と報告されており、たばこや成人期の食事・肥満と比べ低いことがわかると思います。

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以下が放射線検査の一般的な被ばく線量です。

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多い検査でも被ばく量は10mSv以下です。原爆の被爆者の追跡では100mSv以上の被ばくでは100mSvの被ばくにつき0.5%の人数ががんになるという結果ですが、それ以下の放射線被ばくでは、有意にがんの罹患人数が増えないというのが現時点での研究の結果です。

最後に

地球上に放射線のない環境はありません。問題はどれだけの量を被ばくするかということにあります。放射線は目に見えませんが、測定することが出来ますので、数値で科学的に判断することが大切です。ただ100mSv以下の低線量被ばくに関してはその明らかな影響はわかりません。放射線、抗がん剤、手術など、診断、治療に関することにはすべて利益とリスクがあります。放射線には確定的影響と確率的影響、抗がん剤にも副作用、手術には合併症があります。現在の医療で病気を発見したり、治療の効果を判定するためには、放射線被ばくが他の検査に比べ比較的多いCT検査は必須の検査となっています。中央放射線部では、出来る限り少ない放射線量となるように日頃から放射線管理、機器管理、撮影技術の向上に努めています。

我々医療従事者は、法律で5年間の被ばくを100mSv以下に、1年間の被ばくは最大でも50mSv以下にするよう勧告されています。これは医療従事者であれば状況に応じてその程度のリスクを甘んじて受ける責任がある立場だと理解して診療をしています。
放射線に関することで不安に感じていること、疑問に思うことなどがありましたら、遠慮なくご相談ください。

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