災害医療部
概要
我が国の国土は約8割が自然に囲まれており、その豊かな自然がもたらす災害は毎年のように各地で起こっています。当院では、平成23年(2011年)に災害拠点病院の指定を受けたことにより、新たに災害・救急医療センターを設立しました。さらに、令和4年(2022年)より、災害への対策の充実を図るため、災害対策を専門的に取り扱う組織として災害医療部を独立させ、災害対策に関する専門的な知識を持つスタッフを専任職員として配属しました。このことにより、災害対策がより実践的な行動となるよう、過去の災害から学び得た知識を活用し、災害時に災害対策が活きるように日々取り組んでいます。
スタッフ紹介
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災害拠点病院指定
災害拠点病院とは、平成7年(1995年)に発生した阪神・淡路大震災を機に、平成8年(1996年)に当時の厚生省の発令によって定められた「災害時における初期救急医療体制の充実強化を図るための医療機関」です。災害拠点病院の機能ですが『多発外傷等の重篤患者の救命医療、患者等の受入・搬出を行う広範搬送、自己完結型の医療救護チームの派遣、地域医療機関への応急用資器材の貸し出し』です。
当院は、平成23年(2011年)10月に岐阜県から災害拠点病院の指定を受けており、災害時にはその機能を十分に活かせるように取り組んでいます。その代表的な取り組みとして、災害時に病院機能を継続できるようにBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)を平成30年(2018年)に策定し、その内容に合わせて、年2回の災害訓練を実施しています。また、災害訓練の結果を分析・考察し、より災害時行動に沿った災害対策になるように、BCPの改訂も合わせて取り組んでいます。
DMAT(災害派遣医療チーム)指定病院
災害派遣医療チームとはDisaster Medical Assistance Teamの頭文字をとって「DMAT(ディーマット)」と呼ばれています。このDMATは平成7年(1995年)に発生した阪神・淡路大震災を機に「避けられた災害死」を救命するため、厚生労働省より平成17年(2005年)に発足されました。このDMATですが「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成されています。大規模災害や多傷病者が発生した事故などの災害現場に、急性期(おおむね発災後48時間以内)から活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームです。具体的な活動として、災害発生時には、短時間で災害現場に乗り込める機動性を有し、活動期間中の医療資機材や食料の確保及び燃料の調達等は自らのチームで行います。医療支援活動を災害現場で行った後は、被災地にゴミを一つも残さずに自院へ帰ってくる、自己完結型での活動を行っていくことになります。
当院では平成24年(2012年)にDMATを整備し、同時に岐阜県より岐阜DMAT指定病院の指定を受け、災害派遣に関する協定を締結しました。令和4年(2022年)時点で当院にはDMAT隊は3チームを保有していますが、さらなる拡充を目指して取り組んでいます。また、保有の3チームに関しては、ワーキンググループを立ち上げ、災害現場での医療活動に関する知識や技術に対して、研鑽に努めています。
トピックス
能登半島地震への対応
令和6年1月1日に発生した能登半島地震において、当院ではDMAT及びDPATを計5チーム派遣いたしました。
DMAT
- 1月 5日~ 8日(珠洲市)
- 1月 9日~14日(金沢市)
- 1月18日~21日(輪島市)
- 1月21日~24日(輪島市)
DPAT
- 先遣隊 1月8日~12日(珠洲市)
活動の概要
元日に発生した能登半島地震では、岐阜市内は震度4程度の揺れを観測しましたが、幸い当院に被害はありませんでした。しかしながら、当院では年末年始に電子カルテを含む病院情報システムの更新作業を行っていたため、まずは新システムが正常に稼働することを確認する必要がありました。
新システムが正常に稼働し、年明け最初の外来診療が問題なく開始できたことでDMAT及びDPATの派遣が可能と判断しました。
DMAT:1チーム目
珠洲市総合病院へ支援に行きました。病院は断水や職員の不足等で入院機能が低下していたため入院患者さんを金沢市へ転院させる方針となっており、その調整を支援しました。報道にあったように陸路での移動が困難であったため、ヘリコプターでの搬送を進めていましたが、天候不良によってヘリコプターの調達にも難渋し、転院がなかなか進みませんでした。活動を終了し岐阜へ戻る際には、我々の車両に患者さんを乗せ金沢市まで約5時間かけて石川県立中央病院まで転院搬送を行いました。 | |
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※珠洲市総合病院から石川県立中央病院(金沢市)へ患者さんを転院搬送 |
DMAT:2チーム目
能登半島ではなく、金沢市への派遣となりました。この時、金沢市にあるスポーツセンターが1.5次避難所として開設され、能登地方からヘリコプターや自衛隊機で続々と傷病者が搬送されていました。スポーツセンターからさらに金沢市内及び周辺の医療機関へ転院搬送を担いました。また、石川県立中央病院内に設置されたDMAT活動拠点本部業務も行い、能登地方からの搬出予定者の確認や受け入れ施設の確保、搬送手段の調整などを行いました。 | |
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※日没後にも能登地方から搬送された傷病者の受け入れを行いました。 |
DMAT:3チーム目
輪島市門前地区への派遣となりました。発災後、半月以上経過していましたが山間の集落への道はまだ開通しておらず、自衛隊に先導してもらい避難所を巡回しました。避難所生活が長期化することが予想されましたので、避難所を周りながら体調不良の方がいないか、リスクの高い方がいないか確認し、活動拠点本部へ報告し、後続隊への引継ぎを行いました。 | |
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※輪島市内の避難所を巡回診療し傷口の処置を行う |
DMAT:4チーム目
3チーム目と同じく輪島市門前地区での活動となりました。避難所で感染症が流行し発熱患者さんが多数いるということで、JMAT(日本医師会の医療チーム)、薬剤師会と協同して発熱診療所の立ち上げを行いました。岐阜市民病院でこれまで新型コロナウイルス感染症の患者さんの診療を行ってきたノウハウを活かすことが出来ました。 | |
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※JMAT、薬剤師会の薬剤師と解熱剤や抗ウイルス薬の調剤について運用を協議 |
発熱外来が順調に開始できたことを確認し、避難所の巡回も行いました。先発隊からの支援物資を必要としている方がいるという申し送り事項を確認し、巡回に合わせて支援物資を届けるという任務も遂行しました。 | |
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※山間部の避難所へ支援物資を届ける |
DPAT
当院として初めてのDPAT派遣となりました。主に珠洲市で活動しました。他県のDPATや地元医療機関、行政、保健師等と協同し精神保健福祉活動を実施しました。震災によって生活環境が変わったことで心の不調を訴える方や、精神疾患を有する方の症状が悪化した方のケアにあたりました。また、現地の医療従事者自身の精神的なケアという重要な問題も知ることが出来ました。 | |
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※保健センターで他のDPATチームと打ち合わせ |
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※活動を終え帰院 |
派遣を終えて
今回の震災では急性期から継続してDMATの派遣を行いました。これにより、時間の経過とともに状況が変化していくことを経験出来ました。医療支援チームは、震災によって通常より大幅に増大した医療ニーズと、医療者自身も被災することによって減少する医療供給体制のギャップを埋めるために支援に入りますが、最終的には現地の医療提供体制でバランスが取れるところに戻していくことになります。発災当初は被害の全容も見えない中、手探りの中での活動になりますが、時間が経過していくことで徐々に全体が見えるようになると、どのように復旧し平時へ戻していくかという観点で活動することが重要であると学びました。
DPATに関しては、当院から初めての派遣を行いました。避難所での生活は健康な人でも辛いものですが、精神疾患を有する方にとってなれない集団生活は大きなストレスとなり、倒壊寸前の自宅に戻ってしまうという課題もあることを知りました。精神の支援チームだからこそ気づくポイントもあり、DMATにとって学びとなりました。DPATとDMATの両方のチームを有するということは当院にとって大きな強みになることを実感しました。
また、5月中旬には、珠洲市総合病院へ職員有志で集めた義援金をお届けさせていただきました。発災後4カ月を経過し、復興が進んでいるかと思っていたのですが、市内では今も断水している家庭があり、倒壊した建物もそのままの状況で、復興はこれからという状況でした。
これまでの災害支援では単発で活動することが多かったですが、今回は継続して支援を行ったことで見えてきたことが多くありました。今回の経験を今後の災害対策に活かしていきます。
災害派遣精神医療チーム(DPAT)を整備しました
11月25日(日)に岐阜県庁でDPAT研修が初めて開催され、当院の精神科医師、看護師、薬剤師(業務調整員)が研修を修了、岐阜DPATとして登録されました。今後は、災害時に岐阜県からの要請を受け、岐阜DPATとして支援活動を行っていきます。 ※DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Teamの略 【DPATの主な活動】 災害時には、通常の医療機能が低下するだけでなく、災害ストレス等により新たに精神的問題が生じるなど精神保健医療への需要が拡大します。そこで、DPATが被災地域に入り、精神科医療および精神保健活動の支援(以下参照)を行います。 ・被災地域の精神保健医療ニーズの把握 ・他の保健医療体制との連携 ・各種関係機関等とのマネージメント ・専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援 岐阜市民病院は、災害拠点病院として指定されており、また精神科病棟を有することから災害時の精神科医療分野の支援も重要な任務であると考え今回の整備に至りました。これまでもDMAT(災害派遣医療チーム)を整備してまいりましたが、この度DPATを整備し、災害支援体制をより強化いたしました。 |
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岐阜市立本荘中学校で災害に関する講話を行いました。(令和3年12月18日)
岐阜市立本荘中学校で行われた防災研修の中で、災害に関する講話を村上栄司医師(災害医療部 部長)が行いました。 災害拠点病院に指定されている当院の役割やDMATについて、コロナ禍ということをふまえて、被災者へ支援を行う際に気を付けたい感染対策などについて説明するとともに、実際に本荘校区が被災した場合にどのようなことが予想されるかといった現実的な部分についてもお話ししました。生徒だけでなく訓練に参加された自治会の方々も興味深く聞いていただくことができました。 災害時には病院単独で対応することは不可能ですので、今後も行政や自治体等と連携を進めていきたいと考えます。 |
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