トピックス1 鼠径部ヘルニア
腹腔鏡下手術から鼠径部切開法まで、全身麻酔から局所麻酔まで、患者さんの状態に応じて最適な手術方法を選択しています。
鼠径部ヘルニアとは?
いわゆる「脱腸」です。「ヘルニア」とは、からだの弱くなった部分から飛び出すという意味です。鼠径部の筋肉の弱くなった部分から腸や脂肪が皮膚の下へ飛びだすのが、鼠径部ヘルニアです。「鼠径部」とは脚の付け根の部分をいいます。鼠径部には腸管などが飛び出す穴が3か所あり「内鼠径ヘルニア」「外鼠径ヘルニア」「大腿へルニア」に分けられます。

めずらしい病気ではありません
日本全体で年間約15万人が手術をうけているとされます。決して珍しい病気ではなく、一般的な病気と言えます。男性は生涯に約30%が発症するとされ、女性は約3%とされます。手術の多くは60-70歳台の高齢者が多いです。小児(特に乳幼児)でも10%に発症するとされ手術が行われています。
どうしてヘルニアになるのか?
年齢とともにおなかの筋肉は弱くなり、腹圧に耐えきれなくなると鼠径部の筋肉のすきまから腹膜につつまれた腸管や脂肪が飛び出します。手術が高齢者に多いのも年齢とともに筋肉が弱くなってくるためです。

どんな方がヘルニアになりやすい?
おなかに持続的に圧がかかりやすい場合が多いです。重いものを持ち運ぶ仕事や、腹圧がかかる運動、肥満体型や喘息、糖尿病や喫煙者なども起こりやすいとされます。
どんな症状か?
ふくらみ部分に「痛み」や「違和感」を感じることがあります。症状がひどくなると生活に支障をきたします。腸管が飛び出して戻らなくなる(嵌頓:かんとん)と「激痛」を感じることもあります。
嵌頓(かんとん)とは、主に飛び出した腸管がもとに戻らず血流が悪くなること
飛び出した腸管や脂肪がおなかの中に戻らなくなる状態です。「耐え難い痛み」を伴い救急車で救急外来に搬送される場合が多いです。嵌頓して初めて受診される患者さんも少なからずおられます。

腸管が嵌頓(かんとん)する可能性は?
最初の発症から1年で1%ほどとされます。恐れ過ぎることはありません。
もし嵌頓(かんとん)したら、すぐに医療機関を受診してください。
鼠径部ヘルニアの「耐え難い痛み」を感じたらすぐに医療機関を受診してください。数時間以内の早期であれば、医師の圧迫手技(徒手整復)によって腸管をおなかの中に戻せる可能性があります。戻せたらその後の手術を計画するのが良いでしょう。もし戻せない場合には緊急手術となり、腸が腐って(壊死)いれば切除する場合があります。緊急手術ですとメッシュを積極的に使用できない場合が多く再発率も上がってしまいます。
セルフチェックがあります
ご自分で行える鼠径部へルニアの有無の検診です。時々、入浴の際などに下腹部を確認してみましょう。これまで気づいていなかったり最近感じるようになったりした、ふくらみやシコリを触れる場合には鼠径部ヘルニアかもしれません。

鼠径部ヘルニアを疑ったら?
まず、かかりつけの医師に相談しましょう。鼠径へルニアが疑わしい場合には、当院をはじめ外科のある病院を紹介していただきましょう。かかりつけの医療機関がない場合には、お近くの内科もしくは外科を受診しましょう。もちろん直接当院を受診していただいてかまいません(ただし、初診料がかかります)。
治療の中心は手術です
薬で治ることはありません。完全に治すためには、手術が必要となります。
しかし、必ずしも手術が必要なわけではありません
最近のトピックスです。従来は鼠径部ヘルニアを発見したら、腸管の嵌頓予防で手術をお勧めしておりました。しかし、最近の臨床試験から手術をせず問題なく経過をみられる患者さんも多くおられることがわかってきました。そのため最近では、すべてが手術ではなく「痛み」や「違和感」などの症状がある場合や、徐々に「ふくらみ」が大きくなってくる場合には手術をお勧めしています。もちろん、症状はないけれども今後も腹圧のかかる運動や仕事を継続するために、最初から手術を選択するのも一つの考え方です。
手術ではメッシュ(人工物)を設置します
30年ほど前までは筋肉同士を寄せて穴をふさぐ手術(組織修復法)が主流でした。しかし、再発率が高く現在はメッシュと呼ばれ溶けない素材の人工物のシートで筋肉の穴をふさぐ手術が一般的です。当院での再発率は1%ほどです。
鼠径部切開法と腹腔鏡手術について
鼠径部切開法
従来から行っている方法で、ヘルニアのふくらみ部分の前方から皮膚を4-5㎝切開し、飛び出した腸管や脂肪を腹膜ごとおなかの中へ戻します。そしてメッシュで穴を塞ぎます。
腹腔鏡下手術
臍に2cmほど、その両サイドに5㎜の皮膚切開を行います。モニターにおなかの中を移し出しながら鉗子(かんし)と呼ばれる細い器具を使用して、お腹の中からメッシュを用いてヘルニアを修復します。
岐阜市民病院の手術の現状は?
年間150名ほどの鼠径部ヘルニア手術を行っています。2015年から腹腔鏡手術を開始し、2025年には半分以上が腹腔鏡手術となりました。
決して難しい手術ではありませんが、ヘルニアの状態で難易度が変わります
外科指導医のもとで研修医や専攻医(修練中の外科医)も行える基本的な手術です。ただし、患者さんの体型やヘルニアの大きさ、過去のおなかの手術歴などによって難易度が変わります。また、再発や慢性疼痛の原因となりうる手術のポイントがあり、特に腹腔鏡下手術では経験の豊富な医療機関で行うことが勧められています。
腹腔鏡手術と鼠径部切開法は、患者さんの状態に応じて選択しています
日本ヘルニア学会のガイドラインでは、適切な医療機関での手術であれば腹腔鏡手術が推奨されています。当院では全身麻酔が可能な患者さんには腹腔鏡手術をお勧めしております。腹膜炎の治療歴や前立腺の手術歴などがある場合や、心臓や呼吸の機能低下、不整脈など全身麻酔にリスクを伴う場合には、従来通りの脊椎麻酔での鼠径部切開法で手術を行っています。
さらにハイリスクの患者さんには局所麻酔で手術を行っています
全身状態がよくなく、全身麻酔も脊椎麻酔(下半身麻酔)も困難の場合には、局所麻酔での手術も行っております。心臓のステントなどのため抗凝固薬・抗血小板薬(血液サラサラの薬)を手術前に中止できない患者さんに対しても、全身麻酔が困難であれば局所麻酔での手術を提案しています。
入院期間は?
当院では3泊4日の入院期間としています。手術の前日に入院、手術の翌日から食事を開始し、翌々日に問題なければ退院としています。より安全かつ慎重に入院診療を進めております。
手術の合併症は?
頻度は低いですが、出血、水腫形成、血腫形成、創部感染、周囲臓器の損傷などがあります。稀なものとして慢性疼痛、メッシュ感染があります。合併症の中には手術操作によって避けられるものがあるため、細心の注意を払って手術を行うことを心がけています。
手術後には通院が必要か?
退院の1-2週間後に外来でキズと鼠径部のふくらみの有無を確認します。その後はさらに6か月後に診察し完全に終了となります。その後は再び膨らみが見られるなど再発が疑わしい場合には再度の受診をしていただきます。
退院後の生活は?
退院後の次回の外来受診日までは入浴ではなく、シャワー浴としています。外来受診でキズが問題なければ入浴可能としています。手術後2週間は強い腹圧のかかるトレーニングや重いものを持ち上げる仕事は控えるようにしています。手術後1か月からは完全に元通りのトレーニングや仕事が可能としています。
小児のヘルニアの場合は?
当院では小学生未満の未就学時のお子さまの場合には、岐阜大学病院をはじめとした小児外科のある医療機関へ紹介しています。小学生以上であれば小児外科医を招へいして当院で手術を行っています。小児の場合には成長の妨げになりうるメッシュを使用せず、腹腔鏡下に溶けない糸でヘルニアの穴を縫い縮める手術(LPEC)が一般的です。
おなかのヘルニア外来からのメッセージ
鼠径部ヘルニアを最初から手術すべきか、しばらく経過をみても大丈夫か、手術すべきならどのタイミングか、その見極めは重要です。おなかのヘルニア外来では患者さんのもともとの病気やライフスタイルなどを考慮し、適切な治療方針を提案しております。お困りのかたは、ぜひご相談ください。












